戦略・戦術ばかりに投資する中小企業
なぜ、正しいはずの施策が”効かない”のか
「SNSを始めたけど、フォロワーが増えない」 「広告を打ったのに、反応がほとんどない」 「ホームページをリニューアルしたのに、問い合わせが増えない」
こうした声を、僕はこれまで本当に多くの中小企業の経営者から聞いてきました。
不思議なのは、彼らが何もしていないわけではないということです。むしろ逆で、かなりの額を投資しています。SNS運用代行に月額数十万、リスティング広告に年間数百万、ホームページ制作に数百万。やるべきことは、一見やっている。それなのに、成果が出ない。
なぜか。
結論から言います。多くの中小企業は、「戦略・戦術」にばかり投資をして、その土台となるものに一切投資をしていないからです。
経営の構造には、「順番」がある
経営には、本来明確なレイヤー構造があります。
一番底にあるのが「経営理念」。自分たちは何のために存在しているのか、この事業を通じて社会に何を届けたいのか。すべての判断基準となる、いわば”根”の部分です。
その上に「ブランド」があります。理念を起点にして、自分たちの独自性や世界観を言語化・可視化し、顧客の心の中にひとつの明確な像をつくる営みです。
そして、その上にようやく「戦略・戦術」がくる。SNS、広告、ホームページ、チラシ、イベント。これらはすべて、ブランドという幹から伸びた枝葉であり、理念という根から養分を受け取ってはじめて生きるものです。
ところが、多くの中小企業ではこの順番が完全に逆転しています。根も幹もないまま、枝葉だけを必死に伸ばそうとしている。だから、どれだけ水をやっても(=お金をかけても)、枯れてしまうのです。
「食事でみんなを幸せに」は、経営理念ではない
「うちにもちゃんと経営理念はありますよ」
そうおっしゃる経営者も少なくありません。しかし、その中身を聞くと、こういったものが出てきます。
「食事でみんなを幸せに」 「お客様の笑顔のために」 「地域に愛される企業を目指して」
一見すると立派な言葉です。しかし、少し厳しい言い方をすれば、これらは経営理念として機能していません。なぜなら、どの同業者にもまったく同じことが言えてしまうからです。
「食事でみんなを幸せに」これは、あらゆる飲食店が掲げられる言葉です。隣のラーメン屋にも、向かいのイタリアンにも、駅前のファミリーレストランにも当てはまります。つまり、この言葉では「なぜ、あなたの店でなければならないのか」がまったく語られていない。
本当の経営理念とは、その企業”だけ”の存在意義を示すものです。創業者がなぜこの事業を始めたのか。どんな原体験があったのか。何に怒りを感じ、何に感動し、どんな未来を見たいと思っているのか。そうした「個人的で、切実で、代替不可能な想い」が凝縮されたとき、はじめて理念は”機能する”言葉になります。
誰にでも言えることは、誰の心にも届きません。
ブランドが「存在しない」企業の特徴
経営理念が曖昧な企業には、もうひとつ共通した問題があります。「ブランド」が存在しない、ということです。
ここで言う「ブランド」とは、高級品のことではありません。ヴィトンやエルメスだけがブランドではないのです。ブランドとは、顧客の頭の中にある「あの会社(お店)といえば、◯◯だよね」という、明確で一貫したイメージのこと。それが存在するかどうか、という話です。
ブランドが存在しない企業には、いくつかの特徴があります。
まず、「見た目がバラバラ」であること。名刺、ホームページ、SNS、店舗の看板、チラシ。それぞれを別の業者に頼み、別のトーンで作っているため、同じ会社なのにまったく統一感がない。お客様の頭の中で、ひとつの像を結ぶことができません。
次に、「何屋さんかわからない」こと。業態や事業内容は把握できても、「他の同業者とどう違うの?」と聞かれると答えられない。差別化が言語化されていないのです。
そして、「価格でしか勝負できない」こと。ブランドがないということは、選ばれる理由がないということです。選ばれる理由がなければ、消費者は最も簡単な比較基準「価格」で選びます。そうなると、値下げ競争に巻き込まれ、利益は削られ、体力勝負になり、やがて疲弊する。この構造から抜け出せなくなります。
土台なき戦略は、”砂の上の城”である
ここまでの話を踏まえて、もう一度考えてみてください。
経営理念が曖昧で、ブランドも存在しない。その状態で、SNSを更新し、広告を出し、ホームページをつくる。それは一体、何を伝えているのでしょうか。
答えは、「何も伝わっていない」です。
たとえば、ある飲食店がInstagramを始めたとします。美味しそうな料理の写真を毎日アップする。しかし、その写真を見たユーザーは思います「美味しそうだけど、似たようなお店は他にもあるよね」。料理の写真は無数に流れてきます。その中で「このお店に行きたい」と思わせるには、料理の向こう側にある”物語”が必要です。なぜこの料理をつくっているのか、どんな想いがあるのか、どんな世界観を持っているのか。
それが、ブランドであり、理念です。
広告も同じです。リスティング広告でどれだけ上位に表示されても、クリックした先のホームページに「らしさ」がなければ、ユーザーはすぐに離脱します。クリック単価だけが積み上がり、成果には結びつかない。
戦略・戦術は、伝えるべきものがあってはじめて力を発揮します。伝えるべきものがないのに、伝える手段だけを増やしても、それは砂の上に城を建てるようなものです。どれだけ立派に見えても、波が来ればすぐに崩れる。
「投資の順番」を変えるだけで、景色は変わる
僕がこの話をすると、多くの経営者はこうおっしゃいます。
「でも、理念とかブランドって、すぐに売上に繋がらないですよね?」
その気持ちは理解できます。特に中小企業の経営者は、日々の資金繰りもあり、すぐに目に見える成果が欲しい。だから、即効性がありそうな広告やSNSに飛びつく。
しかし、考えてみてほしいのです。その「即効性のある施策」に、これまでいくら使ってきましたか。そして、それは本当に効きましたか。
多くの場合、効いていないのです。効いていないのに、同じレイヤーの施策を次から次へと試し続けている。広告がダメならSNS、SNSがダメならYouTube、YouTubeがダメならTikTok。手段を変えているだけで、根本の問題には一切手を付けていません。
投資の順番を変えてみてください。
まず、経営理念を本気で言語化する。自分たちは何者で、なぜここにいて、何を成し遂げたいのか。表面的なスローガンではなく、自分の腹の底から出てくる言葉を見つける。
次に、その理念をもとにブランドを設計する。視覚的な世界観、言葉のトーン、顧客に届ける体験のすべてに一貫性を持たせる。「あの会社と言えば、◯◯」という像を、意図的につくる。
そのうえで、戦略と戦術を展開する。そうすれば、SNSの一枚の写真にも、広告の一行のコピーにも、ホームページの一つのページにも、ブランドの血が通います。同じ「発信」でも、届く力がまったく違ってくるのです。
理念優先で、経営を組み立て直す
R.D.C.は「理念優先」を掲げるブランディングデザインオフィスです。
「利益優先ではなく、理念優先なひとのためのデザインオフィス」これは僕たちのコンセプトですが、同時に、僕たちがクライアントに伝え続けていることでもあります。
利益を否定しているわけではありません。利益は企業が生き続けるために不可欠です。しかし、利益は「結果」であって、「目的」ではない。目的は理念のなかにある。そして、理念をブランドという形で世の中に届けたとき、利益は後からついてくる。僕はそう確信しています。
戦略・戦術が悪いわけではありません。それらは非常に重要なツールです。ただし、順番を間違えると、どんな優秀なツールも機能しなくなる。
もし今、さまざまな施策に投資をしているのに成果が出ていないと感じているなら、一度立ち止まって考えてみてください。自分たちの「根」は、しっかり張れているか。「幹」は、太く育っているか。枝葉を伸ばす前に、やるべきことがあるのではないか。
経営の土台を見つめ直すこと。それが、最も確実で、最も力強い「投資」だと、僕は思っています。